クリスマス・ハネムーン【ML】
 そして。

 そのまま、軽々と階段の柵の向こうに吊り下げる。

 無理やり柵を乗り越える形になった僕の足元には、床が無く。

 五、六メートルぐらい下に、整備工場に引き込んだ海がたゆたっていた。

 腕一本で吊されているとは、いえ。

 かなり乱暴に振られて、肩が抜けそうになる。

 踊り場に戻ろうと、柵をつかんだ、もう一本の手は、容赦ない岩井の靴底に踏みにじられた。

「う……く……」

 そんな攻撃に、思わず呻けば、岩井は、せせら笑った。

「そういえば。
 酒も。
 女も。
 喧嘩の仕方も。
 オレが、お前に教えたんだっけ?
 なのに、そのオレに断りなく、一人で勝手に変わってんじゃねぇよ!」

 そう、吐き捨てると、岩井は、僕を、なんなく自分の目の前まで持ち上げる。

「『仕事』を邪魔するような悪いコには、お仕置き。
 それがオレ達のルールだ。
 例えお前が『組』から正式に外れても。
 お前とオレが生きている限り、変わらねぇ。
 ……とりあえず、いっぺん、頭でも冷やすんだな!」

 そう言って、岩井は、叩きつけるように腕を振って、僕を下に突き落とした。




「螢さん!!!」

 バシャン!

 ゴッ!



 ……悲鳴のような、佐藤の絶叫が聞こえた、と思った瞬間。


 僕は。


 海水の溜まったごく浅い作業用のプールに落とされて頭を打ち。

 一瞬、意識を失った。







 
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