クリスマス・ハネムーン【ML】
「『あの』雪の王子が、男相手に女房役だって?
 あははは!
 ……悪かったな!
 昔は、好みでない女ばかりを押しつけて!
 こんなことなら、お前を男だと思わなけりゃ良かったぜ!
 見かけどおりに『女』として扱うべきだったんだ!
 デブで頭の禿げた、臭い親父相手にケツでも掘られ。
 慰みモノになっていれば『店』を辞めずに、今でもいたか!?」

「てめぇ!」




 言わせておけばっ……!




 カッ、とあげた血の気の導くままに。

 僕は、岩井に向かって、駆けて行く。

 岩井のいる、工場の二階まで、金属製の階段を、がしゃがしゃ鳴らし、踏みしめて。

 かつて。

 兄貴と呼んだこともある、男に向かって飛びかかろうと、らせん状の階段を上った。

 僕が雪の王子だった頃。

 岩井と僕の仲は。

 親密、とは言えなくもなかったのに。

 この道を極める、と言いながら、実は。

 思い切り踏み外しているはずしているヤツらのやり方は、ロクなもんじゃない。

 あっという間に、階段を登り切り。

 全身のバネを使って繰り出した僕の拳を。

 岩井がガシッ、と重い音を立てて、止めた。

 そして、そのまま。

 拳ごと腕をぐぃ、と引いて自分から僕を引き寄せる。

「けっ!
 オレの教えたことを、全部忘れやがって!
 しかも、ちょっと見ないうちに、ずいぶん拳が遅くなったんじゃねぇか?」

「……!」

「お前の悪りぃ所は。
 欲しいものの前では、冷静さを失う所だ。
 ついでに、視野も狭くなる」

 言って岩井は、僕の耳元で、くくっと笑った。

「もっとも……昔は。
 大事なものは、病院やら、他のどっかにしまってたし。
 邪魔なプライドも無かったから、ちょっとやそっとじゃ怒ることも無く。
 何が起きても、氷みたいに冷静に見えてたたけどよっ!
 今はなんてざまだ!
 オレが知ってるお前は、おキレイな人形みてぇだったのに!
 妙に、人間臭ぇ表情(かお)しやがって!」

 言って、岩井は、僕の腕を掴んだまま。

 階段の踊り場の端まで引きずった。

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