クリスマス・ハネムーン【ML】
「すみません……っ!
 わたしが、泣く資格なんて、ひとつも無いのにっ……!」

 佐藤は、手の甲でごしごしと、目をこすった。

「大変なことに巻き込まれたのに……
 わたしは……何も出来なく……て。
 見てたのに……!
 螢さんを助けることも。
 手を……自由にすることさえも……」

 がっくりと膝をついて、涙を流す佐藤に。

 僕は、横になったままかすかに首を降った。

「……仕方……ないよ……
 こんなの……あんたや……ハニー向きの出来事……じゃない」

 僕たちは、住む世界が違うんだから。

 それに。

「本当に……巻き込んだ……のは……僕の方だ」

 そう目を閉じる僕の手を、佐藤は、握り締めた。

「でも……っ!
 こんな……こんなっ!
 理不尽で酷いことをされていいはずがない!」

「大丈夫だよ……
 僕は……
 ちょっとやそっとでは……汚れないから……
 シャワーを浴びれば……すぐ……元に……」

「螢さんっ!」

 もはや。

 流れる涙を隠そうとせずに。

 佐藤は僕の代わりに泣いてくれているようだった。

 せめて。

 せめて、何かできる事はないかと、泣きながら探す佐藤に。

 僕は、静かに息をつく。


 ……佐藤なら……いいや……

 仕事はちゃんと出来るくせに。

 邪魔だったり、間抜けなことも言うけれど。

 本当は。

 まっすぐで、おひとよしで……優しい。

 そして、何よりも、陽の光が似合うコイツなら……いいや……


 僕は、佐藤に向かって少しだけ首を傾けた。

「……佐藤、もし……手伝ってくれる気があるのなら……
 ……やって欲しいことは……ある……よ。
 佐藤向きの……ぴったりな……仕事……」

「それは、なんですか!?」

 僕が言ったらすぐ、はじめようと身構える佐藤に、僕は、微笑んだ。





「ハニーを……
 ハインリヒ・ヴァルトヒェン・霧谷のことを……頼むよ。
 僕の大切な……
 大切な。
 ……ひとなんだ」

 
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