クリスマス・ハネムーン【ML】
ヒュォオオ……
ビルとビルの間を抜ける風は、冷たくて、強い。
そんな風をまともに受け。
繁華街のネオンを足元に眺める雑居ビルにある吹っきさらしの屋上が。
もしくは。
繁華街から一歩入った、汚い路地裏が。
昔の。
僕の主な職場だったような気がする。
「……あたしのことは、遊びだったのね?」
ビルの屋上で。
やや、生臭い風に、長い髪を流して、女が泣いた。
「いや……遊びなんかじゃないよ?」
普通のサラリーマンなら、まず着ない。
明るい色のスーツのズボンポケットに片手を突っ込み。
くわえ煙草で僕は言う。
「……むしろ、仕事?」
「莫迦ぁっ!」
びゅん、と飛んで来た、女の張り手を頬に受けてやることもせずに。
ぱしっ、と、簡単に手の甲で払う。
「それより『店』からお嬢さんに、五百万ほど請求が来てるけど。
ちゃんと、支払ってくれるよね?
……じゃないと、怖いよ?」
そう言って、僕が一歩近づけば。
今度は、女が一歩下がり。
かしゃん、と音を立てて、屋上のフェンスに張り付いた。
ほら。
もう、女に、逃げ場は無い。