クリスマス・ハネムーン【ML】
「短い時間でしたが。
 博士と螢さんを見れば、わたしが入る隙間なんて無いのは判ります。
 もっと早く、わたしが、博士に思いのたけを告白しても、受け入れてくれるとは、限りません。
 それも、判るんですが……」

 佐藤は、溢れる水滴をもう一度。

 今度は、完全に払って、さっきよりは、だいぶマシに微笑んだ。

「男の嫉妬って、みっともないですよね。
 負けが完全に見えているのに、まだすがっているような。
 潔くない野郎は、わたしも嫌いです。
 なんで霧谷さんが普通の女性でなく、螢さんを選んだのかはどうしてもわかりませんが、霧谷さんが選んだのなら、仕方がないでしょう?」

「……佐藤」

「今は、霧谷博士を無事に奪還しなくちゃいけない時です。
 僕も協力します。
 一刻も早く、霧谷博士を助けましょう!」

 話はそれからだ、なんて。

 拳骨を握る佐藤に、ジョナサンは、驚いたように、目を見張った。

「なんだ。
 Mr.佐藤って、男前だったんだなぁ」

「……なんですか、それは」

「いや俺達。
 余り者同士だけど、案外、付き合ってみたら、面白いんじゃないかと。
 良かったら、俺とパートナーになってみないかって……痛て!」

 いかんとも、節操のないジョナサンの発言に。

 右のこめかみあたりに青筋をうっすら立てた佐藤が、げしっとジョナサンの頭を殴り。

 病室は、騒がしくなった。

「ケアンズ警察は、仕事中に、ナンパするんですか!?
 霧谷博士の命が掛かっているって言うのに、そんなことを……!」

「この場を和ますための軽いJokeじゃないか!」

「いいえ。
 あなたは、本気でした」

 佐藤とジョナサン。

 二人の会話は、こんな時なのに、なんだか息が合ってて楽しい。

 佐藤に言われて、クビを引っ込めるジョナサンを見ながら。

 僕は、ハニーが一緒だったら、絶対。

 笑っていただろうに、と思ってた。

 だけども、現実は。

 ハニーのことが心配で、恋しくて。

 ただ、彼の無事を祈ってただけだった。




 
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