クリスマス・ハネムーン【ML】
 湧きあがって来る焦りを不機嫌な声に変えて唸れば、ジョナサンが僕の肩をつかんだ。

「……だから、僕に触るなって、何回言ったら、判るんだ?」

 そのまま、ジョナサンを、投げ飛ばしたくなるのを必死に抑えて言えば。

 彼は、ぶんぶんと首を振った。

「そんなんじゃ無いですよ!
 お師匠さまを物理的に、止めてるんです!
 判った、大人しくしてる。
 なんて言ってるそばから、出て行こうとしてるじゃないですか!」

「……ここは、気づまりだから、外の風に当たって来るだけだよ!」

「……本当ですか……?」

 僕の言葉に、疑い深そうに眉を寄せるジョナサンに、僕は鼻を鳴らした。

「……昔から、警察とは相性が良くなくて、嫌なんだ!
 なのに、こんな狭い部屋に五人も居れば……!」

 ……自分の部屋にガサ入れが入ったみたいで、嫌だ、という言葉を呑みこんで、きり、とにらんだ。

「……僕は、霧谷博士以外の男には、興味ないんだ。
 こんなムサイ奴らに囲まれて、楽しい野郎がどこにいる?」

「ですが……」

「何か、他に変わったことがあったら、すぐ呼んで。
 目の前のウッドデッキにいるから!」

 まだ、何か言いたいらしいジョナサンを振り切ると。

 僕は、コテージから海に張り出している、デッキに座り込む。

 足を海につけただけで。

 ただ、沈んでゆく夕日を見ているだけなのに。

 よほど信用ならないのか、ジョナサンも、僕をじっと見つめているのが判る。

 それを感じて、僕も息をつく。



 ……次に、この太陽が昇るまでに、必ずハニーに会うんだ。

 そのためには、手段を選ぶつもりも、ぼんやり待っているままのつもりもなかった。

 極端に言えば。

 鯨や、珊瑚礁の問題で、日本が、オーストラリアと揉めても、ハニーさえ無事に帰れば、それで良かったから。

 逸る心を抑えて、先を考える僕の耳に海鳴りが響く。

 コテージの真下にまで、寄せて返す波音だけが穏やかだった。

 そして、それは。

 僕のカッと昇った血の気を抑えて、次に、何をすればいいのか考える余地をくれた。

< 87 / 174 >

この作品をシェア

pagetop