クリスマス・ハネムーン【ML】
「……面目次第もございません……」

 僕は、鼻を鳴らすと。

 幾分素直になった佐藤の両脇に片手を突っ込み、もう一度。

 目的地の工場群に向かって泳ぎ出す。

 ごちゃごちゃやっている内に、もうだいたい半分ほどまで来てしまっているし。

 途中でリタイアしようにも、出て来た周辺と、あとは桟橋までは、人が海に出入りするには難しい絶壁だ。

 佐藤は、泳ぎは下手でも、海にはそれなりに慣れているらしく。

 溺れかけても、水を怖がって僕に向かってすがりつくことは無く。

 泳ぎの邪魔にならないように、運ばれるままには、なってくれた。

 背丈は僕より低いくせに、体重はもっとある。

 大荷物になったのが決定な佐藤を抱えて。

 強い潮に流されずに泳ぐのは、かなりきつい。

 僕が見積もった場所よりかなり沖に流されてはいたものの。

 それでも確実に泳いで行く僕に。

 佐藤は、口の中でもそもそと呟いた。

「あの……わたし。
 螢さんを、誤解していたかもしれないです……」

「……なんだよ」

「螢さんって。
 ちょっとしたことでも、すぐ怒って、モノに八つ当たりするじゃないですか。
 そんなヒトなのに、なんで霧谷さんが、相手にするんだろうって疑問だったんです。
 その壊れそうなほど華奢な見た目で、霧谷さんを騙しているんじゃないか……って」

「……ふん。
 要は、胡散臭い上に頼りないって?」

 このまま、手を放してしまおうか? と半分思いかけたとき。

 佐藤は激しく首を振って、またげほごほと咳をした。

 また、バランスを崩して海水を飲んだらしい。



 ……あんた、実は、莫迦だろ?



 思わずそう突っ込みかける僕の前に、佐藤が言った。

「わたしは、莫迦です。
 昼間、大人のふりして、自分から霧谷博士を諦める、とか言ったくせに。
 本当は、全く諦めてなくて。
 螢さんのことも全然信用してなくて。
 自分の方がデキるって無理やりついて来れば、足手まといになるし」
 
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