カウントダウン
「悠斗、私……あのね……」
強く言えない。
別れたいのに、どう切り出していいのか分からない。
30万という大金を返せば……返してからなら言えるのかな?
「彩音、ショックな事があった後で悪りィけど……会わせたい人がいる。付き合え」
悠斗はこうして私を離してくれない。今更誰に会えって言うの?
だけど、まるで弱味を握られたみたいに拒否なんてできなかった。
泣き腫らした顔をメイクで直してから、再びバイクで向かった先は、先輩がいるという倉庫だった。
「支払いは後日……。すみません」
奥では作業服を着たおじさんと悠斗が話していた。
優しそうなおじさんは、金の事なら気にするななんて言いながらタバコをふかしてどこかに行った。
「悪いな待たせて」
倉庫から少し離れた場所で待たされて、そのまま肩を抱いて連れていかれた先には、2、30人位の男の人達とまばらに女の人が。
雰囲気的に少し怖そうな人達だったけど、みんな楽しそうに笑っていた。
「おー悠斗、新しい女?」
近づいて来たのは見知らぬ男。女の子に品定めをされる事はあったけど、男の子にこんな風に見られるのは初めてだった。
「チョーかわいいじゃん。俺にも貸して?」
ニヤニヤと笑う目の前の男に恐怖を感じる。
その言葉に後からゾロゾロと集まって来た人達が口々に俺にも貸せとかみんなで共有とか訳の分からない事ばっかり言ってきて、堪らず俯いて後退りすれば悠斗は今まで聞いた事のないような低い声で一喝した。
「これ、俺の大事な女だから。テメーら手ェ出すんじゃねぇ」
肩を抱いた腕は、まるでお姫様を守るナイトのように、強く優しく私に絡まる。
一瞬にして静かになって、その中で鳴り響いていたのはゆっくりと近づくヒールを鳴らす音。
俯いていた顔を上げればそこには長身のスレンダーな美女が私を見下ろしながら長い髪をなびかせて近づいていた。