カウントダウン
目の前でピタリと止まる美女は高いところから見下ろすように私を見ている。
バイクだからお気に入りのスニーカーで来た私と、元々がきっと長身なんだと思われるピンヒールの美女との差は圧倒的。
覗く瞳は底冷えするような冷たいものだった。
「ちょっ……美幸さん……」
「え……?嘘……」
後から集まってきた数人の女の子たちが驚いてる。
でも、一番驚いたのは私。
甘い香水の香りが届いたと思った瞬間、私の頬に痛みが走った。
バチンといい音。
美幸と呼ばれた美女は、底冷えのする瞳のまま私を平手打ち。
「泥棒猫……」
そして静かな声で私に言い放った。
この世の中に、こんなに静かな修羅場があるんだと初めて知って、頬がジンジン痛むのに涙は出ずに渇いた笑い声だけが私の口から漏れていた。
「なによ……」
笑った事がよっぽどお気に召さなかったらしい。酷く歪んだ顔でこっちを見てるけど、美女はどんな顔でも美しいからムカツク。
「今どき、昼ドラだって泥棒猫だなんて古い言葉使わないんじゃないの?いきなり現れて殴るなんて一体どーゆー了見だっつーの。悠斗、何?これが会わせたい人?」
かわいげなんてひとつもない。震えすら起きない。
母にはお金を取られて
祐介は他の女を抱いて
悠斗には女として散々な扱いをされて
これ以上どーすればいいワケ?
ビンタが原因だとはいえ、8割型八つ当たりで美幸という女を淡々と言葉で責めた。
元々私が先に付き合っていた事。
美幸という名前は以前携帯で話していた美味しい中華を食べに行った相手だと思い出して、他の女子高生と違って足に使われてる女だという現実。
そして、どこまでいってもアンタはただのセフレだという事。
グチグチグチグチ。
今までのストレスがビンタによって引き出された。
悠斗にやめろと、止められなかったし。
だけど、殴られたのにただ隣でみてる悠斗にも、怒りを覚えたのは確か。