カウントダウン
美女はどこまでいってもかわいらしくて、大きな瞳からポロポロと大粒の涙を流してこっち見たけど私が泣きたいよ。
「悠斗はあなたと別れて私と付き合いたいのに、あなたが別れてくれないって言ってたのよ?」
シクシクと泣きながら。
「誰が言うかよ」
今まで何も言わなかった悠斗が口を開いたと思えば、そんな事を鼻で笑って……。
いつか刺されるんじゃないかななんてぼんやり考える私は、やっぱりもうこの人には気持ちが残ってないんだと改めて実感した。
「悠斗は、私にっ……言ったもんっ……」
「言っとくけど、俺が彩音を離さねぇんだ。美幸さん、今まで色々メリットがあって一緒にいたけど……もう無理。もう会いたくねぇや」
刺されてしまえ。
心底思った。だって、私に対する態度なんかより数十倍も低く冷たい声と態度。
こんな怖いと思う悠斗は初めて見た。
「えーなに?修羅場?ウケんだけど」
誰もなにも発っさない緊迫した状況に、KYな発言が響いた。それは私もよく知る声。
「あははっ、彩音、頬っぺたに季節外れのもみじ。ざっまあ〜」
「ムカツク」
相変わらずの意地悪さ。でも、冷えたペットボトルを渡されて、とりあえずこれで冷やせなんて言ってくるいつもの優しさに、ポロリと涙が溢れた。
「ありがと、祐介……」
「なに泣いてんだよ、さっきまでの啖呵はどーしたんだよ。悠斗、ちゃんと守ってやれよ〜」
へらへらと笑っている祐介に、不敵な笑みでウルセーよなんて返す悠斗。
「えーあんな祐介信じられないんだけど」
「てか、優しくない?」
またざわつく女の子たちは、祐介の態度に驚いていた。
「泣くなよ彩音……」
悠斗の肩を抱く掌は、わざとらしく背中を撫でるけど
「北風と太陽みたいで、厳しいよりも優しくされると涙がでちゃうの!」
そう言って私は、祐介の優しさを大事に頬にあてて冷した。
「許さないから……」
美幸さんは、静かにそう言ってピンヒールを鳴らしてどこかに消えた。
嵐のような出来事だった。