カウントダウン
「大事なとこスルーすんなよ。特別扱いされてる自覚、あんの?」
祐介のトントンと撫でるように叩いていた指先が、急に全身を包むように抱き締めていて、いつになく真剣に話しかけるから、心拍数がどんどん上昇してる。
聞こえちゃう。
今、私は複雑な問題を抱えているのに、彼氏の友達を意識している薄情な女だと、心臓の音が祐介にバラしている。
どんなに取り繕っても誤魔化せない、私は今まで悠斗を散々責め立てておきながら、まだ別れも告げていないのにこうして陰でコソコソ裏切るような、薄情な女。
祐介に嫌われたくない。
だから、落ち着け心臓。
「スッゲー心臓バクバクしてる」
「えっ、あ、ごめ……」
「ほら聞こえる?俺マジカッコ悪りィ、な?」
抱き締めてていた祐介のてのひらが私の後頭部を掴んでそのまま心臓に移動させた。
ピタリとくっつく私の耳は、私以上にうるさく動く音を捉えて、更に鼓動と頬の熱が増していった。
「特別?」
そんな扱いされてるなんて分かんないよ。
「そ、特別。こんな風に抱き締めるなんてホントはありえねぇから」
「……そんなの、分からないよ。だって普段の祐介だって今も本当はよく分かってないもん」
私の知ってる祐介は、デリカシーが欠けてて、意地悪にからかう人だけど、こうやって優しくしてくれる。
手料理を最高の笑顔で美味しいって言って完食してくれる。
そんな人。
噂話なんて、あてにならない。
「……じゃあ、もっと傍にいて。それで俺の事、もっとよく知って?」
抱き締めたまま、祐介らしくない甘い言葉を囁いている。
この雰囲気に、呑まれそう。
私、物凄くドキドキしてるのに、感じた事のない安心感に包まれている気持ち。
涙なんてとっくに乾いていた。