カウントダウン



それからは何だか慌ただしかった。


玄関を出て、祐介に渡された私用のヘルメットをかぶって行き先も伝えられてないままぎゅっとしがみついた。










「着いたから早く降りなよ」


そんな言葉と、差し出された優しい手のひら。


ゆっくりと降ろしてくれて、ヘルメットを脱いで見渡した場所は潮の香りでいっぱいだった。


「ここ……」



海。


そこは悠斗と2度目のキスをした、思い出の場所。



心がズキンと悲鳴をあげた。


あの時は幸せで、こんな風になるなんて思わなかった。


高い所が苦手だから私の理想の観覧車の一番上でのキスは無理って、悠斗は弱いところだって教えてくれ……



「いひゃいいひゃい、なにふんの!?」


過去を振り返っている隙に、気付けば祐介は私のほっぺを左右に引っ張っていた。



「悠斗の事考えてたデショ?俺といる時はそーゆー顔しないでくれる?」


「どーゆー顔よ。てゆーか、痛いよホントに……」



軽く涙目で両頬を擦って、無意識とはいえ祐介に凄く失礼な事をしていた、なんてジワジワと実感してくる。


だからと言って、謝るのもどうかと思ってうやむやにする私はやっぱりずるい女だ。



「つーか、やっぱまだ時期的に少し早いな。寒くねぇ?」


「あ、うん。大丈夫ありがとう」



その言葉を聞いて、じゃあ少し歩くか?なんて聞いてくる祐介は、やっぱり優しかった。


わがままで呼び出して、いきなり泣いて、なのに理由も言わない。そんな私を気遣ってここに連れてきてくれた。



潮の香りは、私の不安でいっぱいになる心を宥めてくれた。


ザザン、ザザンと聞こえる波の音と、闇に浮かんで雲の合間から光を漏らす月は、“何が私は生まれてきて良かったの?だ。ばっかじゃない?”


何て言ってくれてるようだ。



先を歩く祐介の背中を見ながら、一瞬でも厨二病的なバカな考えが浮かんだ私を恥ずかしく思えた。


「祐介、待ってよ!早いってば……きゃっ……へぶっ…」





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