カウントダウン
「彩音のために時間作ったんだよ。昼休み、いいだろ?」
「……っ……!!」
耳元で、低音が囁く。
一年近く付き合えば、何が弱点かなんてお見通しで、こんなにも簡単に翻弄する悠斗が憎い。
「ほーんと、耳……弱いよな?かわいい」
「き、教室戻るから。お昼は駄目」
「待てよ!!」
すり抜けるように足早に離れたのは束の間。
掴まれた腕はピクリともしないでそのまま引き寄せられた。
「やめてよ、みんな見てるから」
「見てねぇよ。この場所は死角になってるから安心しろ。……なぁ彩音、昼休み、迎えに来るからちゃんと待ってろ。分かったな?」
「勝手だよ。いつも断ってるのそっちじゃん」
「俺に逆らうワケ?マジむかつくんだけど。黙って言うこときーてりゃいいんだよ。それとも、ここでイケナイ事されたい?」
「やだっ……」
オニキスのピアスと、黒い瞳が冷たく光る。
この命令は、いつだって絶対で、思い通りにさせなきゃ気が済まない悠斗は、言った事を実行する。
今、制服の中に手が入っていて、それを場所も弁えず好きなように暴れさせてしまう。
「分かった、だから……許して……」
真性のマゾなら喜ぶんだろう。でも私はいつだってこの冷たい瞳と乱暴な腕が嫌だった。
「いい子。後でご褒美あげるからね〜」
私を捩じ伏せる悠斗は、いつだって幸せそうに笑う。
鳴り響くチャイムに救われて、私は4時間目を迎えた。
4時間目が終わる時間は、最近は楽しい時間だったのに。
仕方なく祐介に今日は一緒にいられないってメールを送った。
せめてお弁当だけでもって思って優衣にお願いした事も添えて。