カウントダウン
「優衣、よろしくね」
時間なんて刻々と過ぎて、もうお昼休みを迎えてしまう。逃げ出したい気持ちを押さえて、私は優衣に頼んだ。
「うん、ちゃんと渡しておく。彩音大丈夫?」
「……大丈夫。私、放課後まで待たないで今、言うよ」
「……分かった。何かあったら連絡して、すぐ行くから」
「ありがとう。ねぇ優衣……」
本当は少し怖い。
そう弱音を吐きそうになるタイミングで悠斗の迎えが来ていた。
何も言えなくなって苦笑いの私に苦笑いで返してくれる優衣の存在が、今の私を支えてくれるけど。
悠斗の前に立てばまるで逃がさないと言うように、腰に腕を回して歩き出す悠斗に、私はほんの少しだけ怯えた。
「彩音、面白ェもんが見れるぞ。声、出すなよ?」
それは中庭を通った時。
記念碑の前に二人の男女が向かい合っていた。
明らかに、今告白します的な雰囲気。
「悠斗、だめだよ悪趣味」
「静かに」
付き合いきれない、なんて思いながらも二人を見れば、男は祐介だった。
「あー……あの女一回相手したかも」
隣りでは悠斗がとんでもない事を呟いていたけど、今の私にはそれよりも祐介の方が凄く気になっていて、悪いって思いながらも目が離せないでいた。
「……ウゼェ」
「そんな事言わないでよ〜。一回だけ、いいでしょ?付き合ってみてダメだったらその時諦めるから」
「付き合わねぇよ」
「じゃあエッチは?ダメ?」
「……勃つか勃たねえかで言えば勃つんじゃねぇ?ただ食指が伸びねえ」
「勃つんなら出来るでしょ?ねぇ、しようよ。アタシ、案外クセになるかもよ?」
白昼堂々、とんでもない会話。私はただ固まって聞いてるだけ。悠斗は嘲笑うかのようにあの女の子について毒を吐いていた。
“自慢できるからヤリてぇとか、馬鹿みてえ”
その言葉はきっと、自分に降り掛かった事にも重ねてのことだと思う。
イケメンも大変なんだね。なんてね、この瞬間は余裕だった。祐介の言葉を聞くまでは。