カモミール・ロマンス
その人物がゆっくりと柳瀬の背後を取った。
ズレてもいないメガネを指でくいっと直す仕草にすら威圧感を感じる。
「ふふふ……これはこれは柳瀬先生様ではありませんか」
「こ、これはクラス委員長の郡山君ではありませんか……
ご機嫌……宜しくないようですね」
柳瀬の顔が滝の様な汗で包まれる。
「ええ、見ての通り柳瀬先生様にこうして再び出会えた喜びで、震えが抑えられないほどですよ。
それで?この3ヶ月クラスを僕に放り投げられて、柳瀬先生様は何をしていらしたんでしょうか?
そこのところ詳しく……お聞かせ願えますよ、ね?」
メガネの奥でギラつく亮平の瞳。
柳瀬はヘビに睨み付けられたカエルの様に縮こまり、震える声で「はい」とうなずいた。
亮平がクラスメイトに振り返る。
「それじゃあ僕は担任の柳瀬先生とお話があるから、後は皆宜しくね」
にっこり笑った亮平。
しかしその背後に見える怒りのオーラに皆口を開くことができないでいた。
「あ、そうだ大野さん。
もしかすると後夜祭にも僕は間に合わないかもしれないから、その時は僕の代わりに司会進行宜しく。
じゃあ、みんな桜宮祭を楽しんでね」
ずりずりと柳瀬を引きずって亮平は校舎の何処かへと消えていったのだった。