カモミール・ロマンス
「…………である」
「さっきから何ぶつぶつ言ってるのユキ?」
亮平に連れていかれる柳瀬を見ながら勝手にアフレコしていた勇気。
すかさず(ちょっと面白かったので、切りの良いところで)翔が突っ込みをいれる。
「今日、沙織さん来てくれるんだったよね。楽しみだね」
にっと笑う翔。
勇気は頷いた。
「すっごい楽しみ過ぎて眠れなかった。
早く今日が来れば良いのにって思うのに、何処かで今日なんか来なければ良いのに……って。
はは、わけわかんねぇよな」
そう言った勇気の後ろで呆れた様に言ったのは美咲だった。
「本当わけわかんない。
あんたバカなんだから、そんなこと考えずに楽しんだら良いじゃない」
「ったく」と言って肩をすくめた美咲。
勇気は立ち上がる。
「そうだな。うん、そうだよな。
美咲の言う通りだよな」
焼きそばの野菜を手に持ちながら勇気は豪快に笑った。
美咲が屋台から離れようとすると、直也が小さく声をかける。
「意地っ張り。
でも……よく言えたな」
美咲は「ふん」と返事もせずに屋台を離れた。
その瞳には涙が溜まっていたが、その雫が地面を濡らすことはなかった。