カモミール・ロマンス


校門の脇の桜の木の下。

そこを待ち合わせにしたのは、桜ノ宮付属に伝わる淡い言い伝えがあったからだった。

極ありきたりなものである。

校門脇の大桜の下で告白した2人は結ばれる。

何処の学校にでもありそうなそんな言い伝えを信じることで、ちょびっとでも不安が安らげば良いと勇気はそう思っていた。

「さ、沙織ちゃん。お待たせ」

しかし思うようにはいかないもので、勇気の心臓はバクバクと格好悪く鳴る。

塀に寄りかかるようにして桜の木を見ていた沙織が振り向く。

「ユキ君こんにちは。桜ノ宮の文化祭は賑わってて楽しいね」

「あ、うん……こんにちは」

笑顔一つで心が弾んだ。

その一声で胸がまたトクンと動く。

あと一歩を縮めるだけで、一杯の勇気が必要で。

勇気はふと、恋って難しいな。と思うのだった。

「少しどっか回ってみたりした?」

「ううん、友達と一緒にお昼食べただけ。

なんだか私には賑やか過ぎちゃって……香代は、あ、友達は1人で校舎内を見てくるっていってたよ」

勇気は少しずつ歩み寄り、隣に立つ。

花もなく葉も散った桜の木がどーんとたっているだけ。



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