カモミール・ロマンス
後ろからの声に美咲が振り返る。
「わ、私も佐竹さんの作品が大好きで……
その……
もし美咲さんさえ良かったら後でお話できませんか?」
沙織はまるで告白をする男の子の様に、顔を真っ赤にしながら言った。
呆気にとられる勇気と美咲。
美咲は一度だけ眉をひそめて、笑った。
「うん、喜んで。
私の連絡先はそこの隣にいるウジウジ虫に聞いてね」
「だ、誰がウジウジ虫だ!!」
美咲が沙織にもう一度笑いかけると、沙織も満面の笑顔を返した。
美咲は入り口に吸い込まれていく。
「可愛い子だなぁ……」
小さな呟きがロビーにこぼれた。
誰にも聞こえないそれが、言った美咲の胸をぎゅっと締め付ける。
「私はずっと傍にいたのに……ずっと」