カモミール・ロマンス
気付けば三時間が過ぎていて、2人は帰る時に数点の作品が載っている小冊子を買った。
エレベーターでゆっくりと、胃がふわりとする感覚と共に、現実へと戻っていく。
白い空間から出ると、灰色のビルと青い空が広がっていた。
勇気は何故だか安堵して、胸を撫で下ろすのだった。
「ユキ……?」
「えっ?」
突然に名前を呼ばれた勇気が振り返るとそこには美咲の姿があった。
美咲の手には沙織が持っていたパンフレットと同じ物が握られている。
「な、なんで美咲がここに?」
突然現れた美咲に沙織も驚いていた。
「私はこの人の作品好きで、よく展覧会は見に来てたから……
あんたこそ何でここに?って……あ、もしかして」
美咲は勇気の隣に立つ女の子を見て察した。
同時に胸がズキッと痛んだ。
「あ、えっと私、山田川女学院に通っている進藤沙織って言います」
ぺこっと頭を下げる沙織。
「あ、私はユキと同じ学校の高田美咲……
そっか、あなたが」
美咲は次の言葉を飲み込んだ。
悟られないようにそっと、確かに。
美咲はゆっくりと歩きだす。
そして勇気の横まで来た所で言う。
「ま、楽しんで帰りなさいよ」
精一杯の強がりで作った笑顔と声。
すぐに美咲は歩きだす。
「あ、あの……!」