7days
「うっぜえな」
中野さんはくしゃくしゃと自分の髪を掻き回し、スーツの胸ポケットから煙草を覗かせた。
「中野さん、ここ病院です」
「うるせえ、龍」
イライラすると煙草が吸いたくなるのか。中野さんは、随分と分かりやすい人間だと思う。
さすがにまずいと思ったのか、中野さんは煙草を胸ポケットに戻した。
私は彼に問う。
「どうして疑っているんですか?」
負けない。強気な態度でいかなきゃ。彼なら分かってくれる。
「……争った形跡がないんだ」
争った形跡がない。確かに。一つ一つあの日のことを思い出す。
私は玄関に入って、おかしいとは思った。でもそれは、物の位置が違うとかそういうのじゃなくて。確かにお兄ちゃんの靴はなかったけど。
人がいる気配がしない。そう思っただけ。
「物を投げたり振り回したり、少なくともそういう抵抗は出来るはずだ。それが出来なかったとしても犯人の痕跡は何かしら残るはずだ。だが、それがない」
「だから、元から“証拠”があるお兄ちゃんが犯人だって言うんですか」
「その言い方はおかしい」
龍ヶ崎さんが声をあらげる。
「僕達はきちんと証拠を集めて、その証拠に基づいて捜査をしている。今回はたまたま残念な結果になってしまっただけだ」
たまたま残念な結果に…――