風見鶏は一体何を見つめるか
prologue
「――――はぁ」


僕は朝っぱら盛大なため息をついていた。


 進学校の受験生ともなると、どんなに普段
バカ騒ぎが好きなヤツでもある程度は落ち着
く。

ピリピリとしたこの僅(わず)かな緊張を含ん
だ、このもの静かな雰囲気が僕は好きだ。

かと言って、騒がしいのが嫌いというわけじ
ゃない。

話かけられれば勿論返事はするし、皆が楽し
そうに騒いでいる場をシラケさせるような野
暮な真似はしない。

『無口で変なヤツ』――というのが僕のクラス
でのポジションであり、僕自身のあり方だ。

それなのに。

「おはよーショウくん。相変わらず不景気そ
うな顔してんのな」
その『無口で変なヤツ』に開口一番、そう話
しかけてくるヤツがいた。

飯島は人好きのするニカッとした笑顔で少し
茶色く染まった前髪を揺らして僕の返事を待
っている。

この会話を、一体どれだけ重ねてきたんだろ
う。

自分からは決して話しかけない僕に、よくも
まぁ飽きずに毎朝挨拶してくるものだと心底
感心する。

そんなことを考えている間に飯島は「反応な
しか…」とぼやくと、女子の輪に入るためか
僕に背を向けた。

< 1 / 12 >

この作品をシェア

pagetop