風見鶏は一体何を見つめるか
前もって言っておくが、別に親父は死んだ
わけじゃない。
俗にいう、事実上の離婚というヤツだ。
理由は簡単だった。
息子の僕から見ても器量良しで、
だけどすごく引っ込み思案で内助の功の
タイプだった母さんを後目に、あろうことか
親父は浮気をしたのだ。
毎晩、我慢を知らない子供だった僕や妹だ
けに先に食事を取らせ、自分だけはじっと親
父の帰りを待っていた。
そして、親父は決まって香水の匂いを身体
に纏わせて帰ってくる。ほとんど日付を越え
て帰ってくることが多かったし、男親だけに
息子の僕を可愛がっていたから、僕は物心つ
くまで気が付かなかった。
だけどある日、僕は見てしまった。
じっと親父の帰りを待っている母さんの
目尻に涙が浮かんでいるところを。
そして、時折溢れり涙を拭う姿を。