野良夜行
「白羽?」
木々に囲まれ、かろうじて月に照らされたぼろぼろの社に、腐り朽ちた札。
賽銭箱の口には、蜘蛛の巣が張っている。
なんとも人が寄り付かなそうな、古びた神社だ。
「しらは神社。どう? ぼろぼろでステキでしょう?」
何時の間にか、巨大な狐は人に戻っていた。
衣服を身につける前の、産まれたばかりの姿。
しかし、今度ばかりは、目はある一点に集中していた。
良い笑顔。
悪戯をして、その反応を楽しむ子供のような。
無邪気で穢れを知らない、幼い笑顔。
「あぁ、素晴らしいくらい出そうな住処だ。気に入ったよ」
「前までは、神主さんが居て、ちゃんと整備してくれたんですけどね」
「前って?」
2年や3年どころじゃないぞ、この荒れ様は……。
「80年くらい前かなぁ……」
「80年!? それをさらっと、今何歳なの!?」
「ん~、確か1600年は生きてるかなぁ。まぁ、私に老いはありませんけど」
1600年……。
妖怪とは、そんな地獄を味わう物達なのか。
それを、彼女はこんなにも、軽々しく隠してしまう。
辛かった事もあったであろう、年月を。