君に嘘を捧げよう
そのとき、俺のなかで何かが脈打った。
不覚にもときめいたんだ。
こんな可愛い子にときめかないワケないけど。
それと同時に罪悪感。
俺はこの子を騙してる。
俺は『タクト』じゃないんだ…。
「悪い、用事思い出した。先帰る」
「え?…うん。また明日、学校でね!」
手を振る彼女を背に、俺は走り出した。
逃げたんだ。
これ以上一緒にいたら、勘違いしそうで。
彼女が言ってる言葉も、感情も、向けられてるのは俺じゃない。
全部、『タクト』にだ。
そう自分に言い聞かせた。
無理矢理、自分の中にできてしまった感情に、
気づかない、フリをした。