雪割草
 沈黙が続いていた。

冬に生まれてしまった蝉のように、シローは声を出す事を忘れていた。

「俺の……。うっうん……。」

 ずっと黙っていたせいか、喋り始めようとすると、喉が詰まってしまった。

そして、

「うっうっ……。」

 もう一度喉を慣らしてから話し始めた。

「俺の親は、ずっと福島の田舎で暮らしてるんだ……。

俺も二十数年帰ってないから、今は生きいるのかさえも分からないんだけど……。

ずーっと朝から晩まで畑を耕して、休みといったら正月ぐらいだったと思うよ。

俺は子供心に思ってた……。

この人達は何が楽しみで生きているんだろうなって……。

若い頃は、そんなクソ真面目な両親に反発した事もあったけど……。

でも、今はこう思う……。

多分、うちの父親は母親だけだろうし……。

母親も父親しか知らないだろう……。

世の中には沢山の人と、数をこなしている人も居ると思う……。

しかし、一体どっちが本当に幸せなんだろうなって……。」

 シローは焚き火に両手を当て、炎を見ながら語った。

「ただ、ひとつだけ言えるのは……。

人は時折ーー寂しさを埋めようとして、中身のない空っぽの物でも集めてみたりするものだ……。

でも、本当に自分が探していた大切な物を見つけた時……。

もう、そこには入れておく場所が無くなっている事がある……。

後悔とは、そういう事だと思うよ……。」

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