雪割草
 二階の一番奥にある殺風景な取調室には、中央にねずみ色の机が置いてあり、シローは小窓を背にしてパイプ椅子に座らされていた。

出入り口付近には、調書を取る警官もいる。

膝の上に手を置き、下を向きながら、シローはヒンヤリと汗をかいていた。

机の上には筆跡の傷がいくつも残っており、時の流れを物語っていた……。


 コツ、コツと近付いてくる足音が聞こえた。

おもむろにドアが開き、さっきの若い警官が入ってきた。

その若い警官は調書を取る警官に目で合図を送った後、シローの対面に腰を下ろし尋問を始めた。

「名前は?」

 重く低い口調だった。

「小林 志郎です」

 俯いたままで答えた。

「年齢は?」

「四十二歳です」

「住所は?」

「ありません」

「職業は?」

「何も……。」

 単調な質問のやり取りに、調書を取るボールペンを滑らす音だけが響いた。

警官は更に尋問を続けた。

「あの死体はどうしたんだ?知り合いか?

殺したのか?」

 鋭い眼光に変わった。

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