雪割草
 シローは膝の上で強く拳を握り、

「いえ、殺していません。

私の内縁の妻だったんですが、自分の不注意で死に追いやってしまいました。

誰かに監禁されて衰弱死したんだと思います。

病院に連れて行く途中、息をひきとりました……。

妻を田舎に眠らせてあげたいと思い、そのままリヤカーで運んでいたんです……。」

 正直に全てを包み隠さず話した。

警官は少し後ろに仰け反り、

「お前、死体を勝手に移動するのだって立派な犯罪なんだぞ!

それぐらい判るだろう?」

 手に持っていたボールペンの先で、机の上を叩いた。

「はい……。リヤカーを引きながら、頭の片隅にはいつもその事がありました。

でも、どうしても彼女を生きていた時の姿で、連れて帰りたかったんです」

「もう一人の男は?
仲間か?
何で知り合った?」

「はい、あの人は宇都宮で知り合いました。

あの方は何も知らないし、何もしていません。

どうか、帰してあげて下さい」

 シローは顔を上げると、心の底から若い警官に頭を下げた。

「宇都宮って……。お前どこから来たんだ?」

「東京の新宿から、歩いて来ました……。」

 田中という警官は、ボールペンを置いてシローを見ていた……。

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