雪割草
 田中は、もう既に見えなくなってしまった車の行方を目で追うようにして、更に続けた。

「これは訊いた話しですが、上田警視鑑という方は、とても潔癖な人らしいんです……。

公的なお金も御自分では一切遣わず、なるべく倹約して、警視庁内の改革を断行していたと訊いています……。

しかし、それが仇となって他の執行部から、反感をかってしまったのでしょう……。

更迭されてしまったようなものです。

それ程、警視庁の上層部というのは、我々が想像する以上に複雑な処なんだと思います。

たぶん……。

ああやって、黒塗りの公用車に乗るのも、今日が初めてなのではないでしょうか……。」

 正面玄関のイチョウ並木が風に揺れていた。

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