雪割草
 シローは仏壇の前に座り、線香を二本取り出すと、小鐘を鳴らし手を合わせた。

溜め息を吐き、線香の煙の先に霞む、両親の遺影を見ていた。

゛父ちゃん……。

母ちゃん……。

小さくなっちまったな……。

ごめんな……。

こんな恥ずかしい息子になっちまって……。゛

 深い瞑想と共に、後悔の重石がのしかかる。

それが、二十四年間の光陰の帰結であった。

「志郎さん……。」

「は、はい……。」

 シローは肩越しに振り向き、その声に耳を傾けた。

「さっきは責め立てて悪かったわね」

「あ……。いいえ……。」

 雅代の思いがけない言葉に、シローは少し戸惑った。

「俺は取り返しのつかない事をしちまった。

責められるのは当然です」

 憂き身が漂う雅代の背中を見ながら答えた。

「志郎さん。

来る途中に柿木の幹に置いてある石を見なかったかい?」

 シローはすぐに気付いた。そして、その意味も察していた。

「はい……。わかりました……。」

「あの場所はーー本当は道路が拡張される筈だったんだよ。

元々、うちの土地だったから町の方からお金を積まれてね……。

あの時に手放してれば、どれだけ楽だった事か……。

でもーーうちの人は頑として、それを受け取らなかった。

あの土地は、俺と弟で供養した子犬達の墓があるからってね。

多分、あの人はあんたの事を、とうの昔に許していたんだと思うよ」

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