雪割草
第三十五章~祈り
うっすら漂う、白い湯気の向こう側。
シローは鏡に写る冴えない自分の素顔を見ていた。
湯船になど浸かったのは、果たして何年振りだろう。
疲れた心と体を洗い流すと風呂から上がり、雅代が用意してくれた寝巻きに着替えて茶の間に戻った。
部屋の中では、雅代がコタツの上の新聞紙やチラシなどを片付けているところだった。
静けさが部屋中を包み込み、柱時計の機械的な音だけが、やけに耳についた。
雅代はシローの気配に気付いていないのか、それとも故意にそうしているのか、手を休めようとはしなかった。
静寂の中に佇みながら、シローはためらいがちに口を開いた。
「あのー、すいません」
殊更、気付いたように雅代は顔を上げ、
「あら、上がったの?」
白々しさを口調に載せて、二人の間に走らせた。
「あっ、はい。ありがとうございました。いい湯加減でした」
シローは恭しくそう言うと、手に持っていた濡れたタオルを手渡した。
「隣の部屋に布団を敷いて置いたから」
タオルを受けとり、すぐに雅代は視線を逸らしてしまった。
不穏な空気が和らぐのを待ち続け、やがてシローは思慕の想いをうち明けた。
「すいませんーーお線香上げても良いですか?」
雅代は少し手を止め、
「はい、どうぞ……。」
素っ気ない返事をした。
シローは鏡に写る冴えない自分の素顔を見ていた。
湯船になど浸かったのは、果たして何年振りだろう。
疲れた心と体を洗い流すと風呂から上がり、雅代が用意してくれた寝巻きに着替えて茶の間に戻った。
部屋の中では、雅代がコタツの上の新聞紙やチラシなどを片付けているところだった。
静けさが部屋中を包み込み、柱時計の機械的な音だけが、やけに耳についた。
雅代はシローの気配に気付いていないのか、それとも故意にそうしているのか、手を休めようとはしなかった。
静寂の中に佇みながら、シローはためらいがちに口を開いた。
「あのー、すいません」
殊更、気付いたように雅代は顔を上げ、
「あら、上がったの?」
白々しさを口調に載せて、二人の間に走らせた。
「あっ、はい。ありがとうございました。いい湯加減でした」
シローは恭しくそう言うと、手に持っていた濡れたタオルを手渡した。
「隣の部屋に布団を敷いて置いたから」
タオルを受けとり、すぐに雅代は視線を逸らしてしまった。
不穏な空気が和らぐのを待ち続け、やがてシローは思慕の想いをうち明けた。
「すいませんーーお線香上げても良いですか?」
雅代は少し手を止め、
「はい、どうぞ……。」
素っ気ない返事をした。