雪割草
 目を瞑りながら落とし続けた土は、やがて胸元ぐらいまで積もっていた。

しかし、どうしても顔の部分には落とす事が出来ない。

美枝子の澄んだ寝顔には、ポツリ、ポツリと雪の結晶が降りて来ていた。

シローは土の塊を強く握りしめ、涙で濡れる頬にぶつけた。

 安達太良山は霧で覆われ、空はどんよりと曇っていた。

この丘から見える景色は全て白く包まれてゆき、大地も空にも区別は無く、この世界には誰も存在しないのではないかと思えた。

シローは立ち上がり、誰かに聞こえるように小さく呟いた。



さようなら……。


愛とは希望であり絶望である。


美枝子、一緒になろう……。


シローは深い穴の底へと、足を踏み入れた……。

< 204 / 208 >

この作品をシェア

pagetop