雪割草
「ありがとうございます」

 ちょこんと頭を下げ、シローがリヤカーを引いて帰ろうとした時、奥からおかみさんが声をかけてきた。

「あっ、シローさん!」

 シローも立ち止まり後ろを振り返った。

「あのね……。やっぱりいいわ、ごめんなさい。また、明日ね」

 歯切れの悪い言葉を残し、そそくさと茶の間に戻って行ってしまった。
シローは少し首を傾げながら荷台が空になったリヤカーを引き始めた。

 新宿都庁近くの大きな交差点、朝の通勤ラッシュに紛れながら、シローはリヤカーを引いて家路を辿っていた。

サラリーマンや学生達とすれ違い、雑踏の中に靴音を響かせつつ……。

片足を引きずりながら……。

アスファルトを踏みしめていた。


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