雪割草
第三章~新宿中央公園
 新宿中央公園。都庁の真下にあるその公園は、それ程規模は大きくなかったが、高層ビルの乱立する新宿都心において都会のオアシス的な役割を果たしていた。

 シローは公園の西側、十二支社通りの歩道にリヤカーを停め、片手で腰を二・三回叩きながら車両進入禁止の柵を乗り越え、なだらかな丘になっている公園の遊歩道を歩き始めた。

その丘を登りきると、公園の中に辿り着いた。大きく育った松の木が悠々と並び、青々と生い茂った芝生はまるで天然のジュータンだった。
シローの家は、この公園の中に在った。

 公園の両端は雑木林になっており、その木の下には公衆トイレが設置されていた。
公衆トイレを囲むように段ボールハウスが十数軒並んでおり、シローの家はトイレ側の三軒目の段ボールハウスだった。

「よう!シローさん。今帰りかい?今日は随分と遅かったな」

 シローが家に入る前に公衆トイレで足を洗おうとしているところへ、隣の住人のニシヤンが声を掛けてきた。

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