雪割草
第十三章~長いトンネル
美枝子!


美枝子!

 シローは今にも声になりそうなぐらい、心の中で叫んだ。

すぐに外へ出て、段ボールハウスの人々に美枝子を見掛けなかったか訊いて廻った。

口々に散歩にでも出てるんじゃないかと、最初は高をくくっていたが、昨日の愚かな自分の行為を打ち明けると、皆手分けして捜し始めてくれた。

一人は中野坂上の方へ……。

一人は初台の方へ……。

 シローとニシヤンは美枝子の残り香さえも見落とさないように、十二支社通りを隈無く捜しまわった。

「ニシヤン!ニシヤン!」

 シローは片足を引きずりながら、更に前を走るニシヤンを呼んだ。

「今度は反対側を捜してみよう!」

 ふらつきながら車道を横切った。

「分かった!」

 シローを追い越すようにして、ニシヤンも車道を突っ切って走った。

 俺もあんなふうに……。
俺にもニシヤンのように、自由に走ることが出来たなら……。

シローは自分へのもどかしさと、今ーー何処かに居る筈の美枝子に追いつけない悔しさで、涙が溢れてきた。

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