月夜の物語
新は姫のことを両腕に抱きかかえ、城の中を静かに走った。
先ほどの新の言葉に、姫は黙り込んでしまった。ただ、彼女の目からは涙が溢れて止まらなかった。
名も知らない警備の男にさらわれて、このまま自分はどうなってしまうのか。
「離してよ…っ!」
「大丈夫。俺が姫様を守りますから、」
「いや…、やだぁ、」
細い姫がじたばたと暴れたところで、新には微塵も効果がない。
そうこうしているうちに、新は姫を抱えて城を出た。
朝も早いため、この事態にはまだ誰も気付いていないようだ。
はやく、はやく、一刻も早く。この場から去らなければ。
「助けて、お父様…っ」
姫が小さくそう叫んだのを新はしっかりと聞いたが、聞かなかったふりをした。