月夜の物語
「軽いですね、姫は本当に」
「……………」
「無口ですね、姫は本当に」
「…………」
「ここらの山に決めるか、」
姫をおぶった新は、森の中をゆっくりと一歩一歩進む。
何も言わない姫の背中を、たまにゆっくり撫でながら。
このとき姫は、人肌の温かさを初めて知った。
彼の呼吸と自分の呼吸が混ざるのが、とても心地よかった。
ここまで張りつめていた緊張の糸がゆっくりと解け、姫は新の背中で寝息をたて始めた。
「姫、ほら。あそこに小屋があるのが見えますか?」
「………、」
「いつまで口をきかないつもりです、姫?」
チラリと肩に目をやる。
視野の端っこに、目を閉じて規則正しく呼吸を繰り返す姫が映った。
その姿は美しくて、まるで、人形のようで。
「寝ちゃったか」
新はクスっと笑って、森の奥の山の中にあった、小さな小屋へ足を進めた。