月夜の物語
山の中の小屋では、姫がやっと目を覚ました。
もう日は暮れていて、灯りのない小屋の中は真っ暗だ。
「…あの」
「ああ、姫。お目覚めになりましたか」
暗闇で、新の衣擦れの音だけがする。
次の瞬間、ぼうと灯りがともった。
「ランプや当面の食糧は一応持ってきました」
「そうですか」
「姫はお疲れでしょう。ゆっくりされてください。それともお腹が空きましたか?」
「いえ…」
もともと少食の姫だが、今日は気疲れから全く食欲がわかなかった。
彼女は再び、新の用意した布団を模した布の上に寝転がる。
こんなに背中の痛くなる場所に眠ったことはない。この先このような生活が毎日続くのかと思うと、ぞっとした。
城へ帰りたいと思った。
ほんの、少しだけ。
「お腹が空いたら言ってください。もし俺が寝ていたら起こしてくれてもいい」
「…はい」
「俺はここで横になります」
新は何も敷いていない硬い土の上にごろんと寝転がった。
それを見た姫は、ハッとして体を起こす。
「貴方もこれをお使いになって」
「俺はいいんです。いっつもこんな感じで寝てるから。姫にとっては居心地が悪いでしょうけど…いつかちゃんとした家に住めるようにするので、辛抱してください」
新は微笑むと姫に背を向けて目を閉じた。