月夜の物語
「そうだ。俺の名前は、新です。新と呼んでください」
新は背を向けたまま、姫に声をかける。
姫が小さく「あらた」と名前を呟いたのがわかった。
「俺は姫を何とお呼びすればいいでしょう?」
「…私は」
姫が口ごもる。
沈黙を疑問に思った新は体を起して姫のほうを向いた。
姫は天井を見つめたまま、小さく口を開いた。
「私は、信頼できる人にしか、名前は教えません」
姫の強い言葉は、新の心臓を切り裂くほど鋭かった。
新は一瞬言葉を失って。でも、笑って言った。
「そうですか。では、俺のことを信じてくれるようになった時には、姫のお名前を教えてくださいね」
新はふっと息を吹きかけて灯りを落とす。
姫も同時に目を閉じた。
この男を信じるときは、いつか来るのだろうか。
そう思いながら。