月夜の物語
次の日から、新は髭を伸ばし出来る限りの変装をして、食料調達のために山のふもとへ出ていった。
この町がどこなのか、新は知らなかった。町民の話す言葉も、城下町の人々とは少し違って訛っていた。
「すみません。ここから城にはどうやったら行けますか」
「城?さぁ、見たこともねぇからわかんねぇな」
「そうですか」
「あんた旅の人か?」
「ええ。まぁ」
「気ぃつけなさいよ」
この町の人々は、城のことすら知らない。身を隠すには都合が良すぎた。
城は見えないほど遠い。それに身を隠している山小屋は、この町よりももっと奥深い場所だ。きっと、追手は来ないだろう。
「自由だ…」
そう呟くと、全身に得体のしれない力がみなぎった。
自分と姫は、もう自由の身なのだ。
姫に外の世界の楽しさを、自由さを、思う存分味あわせてやりたい。
縛られないことが、こんなにも幸せだということを、教えてやりたい。
これからたくさんふたりの時間を重ねたい。
新は、軽い足取りで山小屋へ戻った。