月夜の物語
新は、ひとりでは何も出来ない姫のために精一杯尽くした。
時には一緒に山奥へ入り、裸足で土を踏んで、食べられる山菜を教えた。
町で買って来たものは、姫の口に合うようにあるだけの道具を駆使して調理した。
夜、たまに城のことを思い出して泣く姫を優しく抱きしめて、温かい言葉を夜通しかけた。
「俺は、姫を愛しています」
新は毎日何度もこの言葉を姫にかけた。
愛という言葉の意味が、姫にはわからなかった。
しかしそれが優しい意味をもつ感情なのだということだけは、新の表情を見ていてわかった。
今まで誰にも持ったことのない、幸福な感情。
きっと自分も新を「愛している」んだと思った。
そんな毎日で、姫は少しずつ表情を作るようになり
またしばらくすると、楽しい時には声に出して笑うようになり
新との生活に大きな充実感を覚えるようになっていた。
万一のことを考えて、新は姫を町へは連れて行かなかった。
姫は城にいるときと同じように、ずっと誰にも会うことはなかったが、その生活は城にいるときとは全くの別物だった。
ここでは何もかもが自由で幸せだ。