月夜の物語
「姫様。ここに居ては危険です…」
「…………」
「逃げましょう。もちろん。新も連れて」
ずっと新の手を握っていた海月に、悠馬が声をかけると
海月は力なく頷いた。
荷物をいつか新が拾って来た荷車に乗せ、それを身重の海月がひいた。
悠馬は新を背負う。
2人はぺたりぺたりと、1歩ずつ、山道を登っていく。
悠馬の言っていた「宛て」とは違う方向へ。
山の深くまで来て、開けた場所を見つけた。
悠馬が何も言わずにそこに新を降ろす。
海月もそっと立ち止った。
「さぁ姫。最後のお別れを」
海月は俯いて涙を流し、新の元へひざまづく。
そして冷たい新の頬に手を添えた。
「新。私を自由にしてくれて、ありがとう。私と子供は大丈夫だから、ゆっくりとおやすみになって」
頬を撫ぜる。
頭の中で「海月!」と笑って自分を呼ぶ声が聞こえる。
「愛してます。…さよなら」