【短編】狼彼女とチョコレート
校舎内にはほとんど人影はなくて
廊下を歩いていてもすれ違ったのは2人だけ。
あたしは携帯を取り出して素早くメールを打った。
“先に帰ってる”
たったそれだけ。
でも、帰るつもりはなかった。
少し肌寒い廊下。
携帯をポケットにしまうと、向こうから人が歩いてきて、あたしに向かって手を振っているのが見えた。
もちろん会長じゃない。
「探したよ。」
「あら、そう?」
「…また、会長?」
「違う。課題があったから提出に行ったの。」
確か……
隣のクラスの人。
名前は分からないけど。
ふと床に目を落とすと、小さな紙袋を持っているのが見えた。
「…それ。」
「あぁ…これ?」
あたしの目の前に紙袋が差し出される。
少し顔を覗かせると、甘い香りと綺麗なラッピングが見えた。