【短編】狼彼女とチョコレート
「…チョコレート、ね。」
「そう。あげる。」
「あたしに?」
あたしが聞き返すと、彼は満足そうに頷く。
「逆チョコ、っていうらしいよ。僕も作ってみたんだ。」
そう言って、笑顔でぐっと紙袋を押しつけてくる。
この人、ありがた迷惑って言葉を知らないのかしら。
そう思った時、廊下の角で何かが動いた。
あたしは仕方なく笑顔で、その紙袋を受け取った。
「ありがとう。とっても嬉しいわ。」
「良かった。じゃあ、また明日ね。」
「えぇ、また明日。」
彼は嬉しそうに手を振って、その場を立ち去った。
廊下にはほとんど強制的に渡されたと言っていい紙袋を持ったあたしと
……隠れたはいいけど、いつ出たらいいか分からなくなってしまったあの人。
あたしは深くため息をついて、その人の名を呼んだ。