永久の贄[BL]
《長、前!》


低空飛行をしていた哉の叫びによって、思考は一気に彩十の事から別の事へと変わって行った。

今度は後ろの方を走っていた雪が、その前にいた人物達を見たのか何時の間にか前に出ていた。……姿を変えて。

あまりやって欲しくなった“それ”に、オレはただその後ろ姿に苛立ちを覚えるのだった。

もう少しオレが早く気付けば防げたのかもしれないと、自分に対して。


《雪のその姿を見るの、何年振りだろう》


何事もなかったかのようにオレの右肩に止まる哉がポツリと一言漏らす。

オレもその姿を見るのは久々だ。白に近い灰色、銀色と言うべきか。

その毛並みは月明かりに照らされて微かに輝いているように見える。

そしてその紫の瞳は力強く、牙もすごくむき出しになった状態。

オレとその人物達の間に挟むように立ったのは紛れもなく狼。雪の変化した姿だ。

もし朝に出会った村人達相手ならそんな姿にはならない。

その姿に必ず変えさせるような人物を、オレは一人しか知らない。
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