五里霧中



長い坂を一息に駆けあがり、零れる汗を疎ましく思いながら足を動かし続ける。


もう少し、もう少しだ。


『彼女の家』は、坂を上りきってすぐのところにある―――。



路肩に自転車を停め、蝉の合唱が鳴り響く境内へと足を踏み入れる。


そう、彼女の家はこの神社の裏。


そこに段ボールを敷いて暮らしているのだ。



「……おはよう」


傷だらけで顔を伏せる少女に声をかける。


すると少女はビクッと肩を震わせ、警戒の灯る瞳でオレを射抜いた。



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