五里霧中
「……オレの妹にそれ以上近付くな。殺すぞ」
私の前では決して出さないような恐ろしい声。
背筋を冷たい汗が滑り落ちていった。
「まぁまぁ、落ち着こうよ。僕は何も彼女だけを誘拐しにきたわけじゃない」
『誘拐。』
朝刊に載っていたニュースを思い出す。
『連続児童誘拐事件。犯人逮捕はおろか、容疑者の特定さえできておらず、迷宮入りが危ぶまれている』
「……誘拐犯って、あんただったの……?」
恐る恐る尋ねると、男は何でもないことかのように笑って答えた。
「うん」
体中から力が抜けた。
なんだ、それ。