五里霧中



「……オレの妹にそれ以上近付くな。殺すぞ」


私の前では決して出さないような恐ろしい声。


背筋を冷たい汗が滑り落ちていった。


「まぁまぁ、落ち着こうよ。僕は何も彼女だけを誘拐しにきたわけじゃない」


『誘拐。』


朝刊に載っていたニュースを思い出す。


『連続児童誘拐事件。犯人逮捕はおろか、容疑者の特定さえできておらず、迷宮入りが危ぶまれている』



「……誘拐犯って、あんただったの……?」


恐る恐る尋ねると、男は何でもないことかのように笑って答えた。



「うん」


体中から力が抜けた。


なんだ、それ。



< 230 / 351 >

この作品をシェア

pagetop