五里霧中
「ヒーローに、なりたかったんじゃない?」
「……ヒーロ「いい加減にしろ」
兄にしては珍しく、はっきりとした声だった。
遮るようにそう言った兄は強く私の手を握る。
「……もう放っておいてください。オレ達は二人で生きていくので」
「二人で?冗談やめてよね。僕は君たちを誘拐するためにここにきたんだ」
「……冗談なんかじゃありません。オレ達はやっと自由になれたんです」
「……自由?」
兄の言葉に、無意識のうちに反応してしまっていた。
男と兄の視線が私に突き刺さる。
二人の目には疑問が、兄の目には困惑も灯っていた。