五里霧中

《運命の間で》




「クロはわかったことがある」


「へー。なに?」


「君が相当なバカだということだ」


「なにを今さら」


薬品のにおいが鼻をかすめる病室の、真っ白な天井を見つめて適当に返答する。


すると、その様子に気付いたらしいクロが不満そうに声を上げた。



「もし死んでいたらどうするんだい?」


「その時はその時。現在進行形で僕は生きてるんだから、いいじゃないか」


欠伸交じりにそう答える。


でも、まったくもってその通りだ。


だって僕はこうして生きている。


もしあの時こうだったら、なんて考えていたらキリがないだろう。



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