五里霧中
「要するに君は、怖いんだろう」
「―――何がですか?」
「裏切られることが」
静かに心拍数が上がる。
しんとした病室に音が響いていないか、少し不安になった。
「君たちは一度親に裏切られている。
だから、もう二度と捨てられないよう、殻に籠るようになった。
自分を裏切る大人たちは全て敵。
そうやって何かを敵視していないと、行き場のない怒りの矛先をどうしていいかわからなかった」
男は一気にそこまで言いきると、ゆっくりと僕に視線をむけた。
「そんなに気張ってどうする?もっと楽に生きなさい」
その小さな言葉たちは、僕の心臓のど真ん中に沈み込んでいった。