王子様はルームメート~イケメン彼氏とドキドキ寮生活~
二話
「本当に知らなかったのか?」
「……知りません」
寮運営室の札がかけられた、応接セットのある部屋。
そこに男性と二人きりという緊急事態。
綾菜は壁にぴたりと背中をつけ、できうる限り距離をとった。
「知らなかったのは不幸だったな。だが、事実だ」
高等部一年生にして、寮長だという男は、同情するそぶりすらみせず言いきった。
「信じられない……」
明治初期の擬洋風建築だという寮の建物は、石貼りがほどこされ、白亜の輝きをみせている。
中央には塔とバルコニー。
メルヘンの世界を思わせる建物は、お母さんが話していた通り。
バルコニーでお茶会をしたり。夜中まで秘密のおしゃべりを楽しんだり。
この寮で、女の子だけの楽しい高校生活を送るのだと綾菜は信じて疑わなかった。
「確かに十年前まで、この建物は女子寮として使われていた」
御影琥珀と名乗ったこの寮長は、メタルフレームの眼鏡ごしに綾菜を見つめ、淡々と事実を告げた。
きちんとワックスで隙なくセットされた髪は、厳格な寮長のイメージにぴったりくる。
視線が鋭いせいか、きつい印象を受けるけれど、かなり整った顔のひと。
電車で会ったひとといい、この学園は美形が多いのだろうか。